Focal Lensys Professional レビュー

DTM

Focalが2024年10月に発売した、密閉型モニターヘッドホンのFocal Lensys Professionalをレビューします。

Focalには既にListen Proという密閉型モニターヘッドホンがあります。但しListenが定価4万円なのに対し、Lensysは定価12万円と、大分価格レンジが変わります。これらは、単純な上下関係というより、製品が生まれたニーズがそもそも違うように思います。

Lensys Professionalは、’モニタリングの正確性とポータビリティの確保’が製品コンセプトです。
以下のレビューで詳しく紹介しますが、結論としてはその取り組みは大成功しているように感じます。

購入理由

そもそも何でコレを買ったのという点から。

前回のレビュー記事で書いた通り、現状私の中で開放型ヘッドホンについてはNeumann NDH 30で決まり。私は99%ヘッドホンで音楽制作していますが、では常に開放型を使えるかというと、私の制作環境的にはそうでもなく…密閉型の出番も多いのです。

音質という観点では、開放型は密閉型に比べ大きなアドバンテージがあります。だからこそ密閉型ヘッドホンというのは迷うんですよね。密閉型で開放型の音が出れば理想。でも現実はそうもいかない。Lensys Professionalは、その理想に近いのでは…?という期待がありました。

加えて、出先で使える密閉型が欲しかったので、持ち運びを考慮した製品コンセプトという点も、私のニーズにピッタリでした。

Focal Lensys Professional

メーカーコンセプトの’Accuracy. Anywhere.’ を地で行く製品
開放型と併用しても違和感のない密閉型ヘッドホン
NDH 30と聴き比べても遜色なし

ビルドクオリティ

金属とプラスチックの併用ですが上質感があります。

ヘッドバンドの長さは少し短めなので、他のヘッドホンより少し長めにヘッドバンドの長さをアジャストして使う必要があります。

重さは本体のみで306gと、密閉型モニターヘッドホンとしては、やや軽量。スイベルするので薄くなります。折りたたみは不可。分厚いメモリーフォームのイヤーパッドや、ヘッドバンドは、布張りです。摩耗は少し気になるものの、このへんも軽量化には寄与しているかもしれませんね。

一つ難点を挙げるなら、ケーブルの長さ。1.2mのストレートと、3.0mのカールケーブルが付属されています。3.0mのストレートが欲しいよっていう方は居そうだなと思いました。但し私のようなデスクトップミュージシャンは1.2mで十分です。本当は1.5mや1.8mくらい欲しいけど、十分許容範囲。

タッチノイズは、気になるほどではありませんでした。以前同じFocalのListen Proを使っていたときはタッチノイズが気になった覚えがあるのですが、Lensys Professionalのケーブルは特に問題なかったので、個人的にはリケーブルの必要性を感じません

ポータビリティ

Lensys Professionalは、使えば使うほど、本当に持ち運びのことを良く考えて作られているなあと感心します。

実は、FocalにはLensys Professionalと見た目がそっくりのヘッドホンが他に3つあります。それがBathys,HadenysとAzurys です。それぞれワイヤレスANC、開放型、密閉型と設計は違うものの、外見は驚くほど似ています。

つまりLensys Professionalは、元々のモデルがワイヤレスヘッドホンという、持ち運びを前提とした設計のものなので、他のモニターヘッドホンの宣伝文句でよくある「スイベル・折りたたみ可能だから持ち運びにも便利」とは一段違うレベルで、ポータビリティを考慮した作りになっています。

携行することを想定しているため、専用のキャリーケースが付属しており、付属のケーブルと共にそのケースに収納することができます。薄めのセミハードケースで、本体をスイベルさせるとピッタリ収納できる形。

上図のケーブルは両方入った状態です。実際使う時は好きな方だけを格納すれば良いです。

このケースが優秀で、ハードケースより軽く、巾着より防御力があり、ピッタリ収まるからスペースに無駄が生まれません。特定のヘッドホンに合わせたケースってそうそう無いし、たまに付属ケースがあったとしても、デカすぎるものが多いんですよね。その点、可搬性を重視した設計が効いていると思います。

ヘッドホンの携行を考えた時、頑丈なものなら裸でカバンにポイか、布の巾着袋に包むだけだと思います。Lensys Professionalのような少し軽いものだと、ちょっと不安。しかしこのケースなら安心感があります。

ヘッドホンの形状に合わせ、ゆるやかな三角形をしています

インピーダンスについて

Lensys Professionalは、インピーダンスが26Ωと、モニターヘッドホンにしては非常に低いです。
もちろん音量への影響はインピーダンス値が全てではありません。しかしここまで低く作られているのは、恐らくこれもポータビリティへの意識のような気がします。ラップトップ直挿しでもちゃんと音量出るよ、と言いたいんだろうな、と。

音楽制作する側からすると、いちいちヘッドホンアンプなど気にしたくないですし、特に持ち運びの際は、なるべく荷物は減らしたいですから、ラップトップ直挿しでも十分なサウンドが得られるという安心感は嬉しいです。

一方で、既に高インピーダンスのヘッドホンを想定して周辺機器を整えている方にとっては逆に扱いづらい可能性があります。最近はインピーダンスの高低に両対応しているものも多いですが、念の為、直挿しとの視聴比較はやっておいても良いかもしれません。

ちなみに私のM1 MacBook Proで試した感じですが、そもそも2021年以降のMac (Apple Silicon) は、内蔵DAC,アンプが強いということを公式でも謳っていて、高インピーダンスヘッドホンを検知すると電圧を変える仕組みまであるようです。なのでLensys Professionalどころか、インピーダンスが150ΩのNDH 20を直挿ししたところで、何の問題もなく音量は取れました。
音量を大きくしても特にノイズが聞こえることもないし、RME Babyface Pro FSと比べてみても大きな差は感じなかったので、持ち運びは直挿しで良さそうだな、と思っています。

装着感・快適性・遮音性

装着感・快適性は素晴らしいの一言。

以前使っていたListen Proは、側圧がしんどくて手放してしまいました。しかしこのLensys Professionalは、とても良いです。側圧はキツくなくて、メモリーフォームのイヤーパッドがふわっとしていて、非常に付け心地が良い。密閉型モニターヘッドホンの中ではトップクラスではないでしょうか。

遮音性は普通に良い、といった感じ。NDH 20ほどでは無いですが、使っていて遮音性が問題になることは無さそうです。

海外のフォーラムでは、「遮音性に難あり、実はセミオープンなのではないか」というコメントを目にしましたが、実際使ったところ全然そんなことはなく、きっちり密閉型しています

サウンド

開放型に近い自然なサウンド。非常に抜けの良い音です。開放型を聴いた後にLensys Professionalを使っても違和感が少ない、というのが一番のウリなのではないかと思います。密閉型特有の籠り感や、高音の刺さり感がありません

下から上まできっちり出ますので、NDH 30と同じくこちらも「低音も見えるモニタースピーカー」といった表現で良いかな、と思います。

音は極めてモニターライクで基本フラット。良い音というよりは正確な音、といった印象。ですが、バランスとしては少しサブベース帯が強めに出ます。周波数特性上の特徴はここにありますね。全然ブーミーでもなく、音の輪郭もハッキリしておりアタック感も分かるので、個人的にはありがたいです。

あと中高域も少し出ますが…他の密閉型と比べたら全然スッキリしており、抜けの良い音です。
NDH 30と聴き比べても本当に違和感が無く…これ密閉型なの?と疑うレベルのクオリティ。

ステレオイメージと解像度に関しても、困ることは無さそうです。ステレオイメージはNDH 30のほうが若干上ですが、気になる差ではありません。そもそも開放型と同じレベルで戦えているところがすごいですね。

開放型と同じレベルのサウンドクオリティを密閉型に求める人ならば、ぜひ試聴してみてほしいです。

1つ注意点ですが、2025年1月現在、SoundID Referenceには未対応です。但し、Focalのヘッドホンの多くがサポートされていることから、時間が経てばそのうち対応する可能性は十分あると思います。

まとめ

密閉型の弱点と言えば重量や装着感、サウンドクオリティなのに…全てを高水準で纏めてきており、本当にこの子はすごい!
製品としての総合力が高いな、という印象で、長時間の制作にも耐えうるように作られていると感じます。
しかもポータビリティまで併せ持ち、私にはこのヘッドホンは最強に見えます。
私にとってはこれが密閉型モニターヘッドホンの終着点。ちょっと他の手持ちの密閉型を駆逐してしまいそうです。

どんな人におすすめか

これだけベタ褒めしていますが、万人におすすめできるかと言われると難しいです。定価が12万円と高価ですから。

Lensys Professionalは、デスクトップミュージシャンが持ち運びで使う、という用途にピッタリです。ただ、このニーズってニッチだろうな、とは思うわけです。そういう人って、普通は家で作曲するでしょう。

サウンドだけ切り取った場合、Lensys Professionalのライバルは開放型ヘッドホンそのものです。それだけサウンドは素晴らしいのですが、本来は開放型の音が欲しいなら、開放型ヘッドホンを使うのがベスト。そうすると、同じクオリティの音がもっと安く手に入って、下手すると差額で密閉型ヘッドホンも買えちゃいます。
私の大好きなNeumann NDH30も、Sennheiser HD490Proも、巷で大人気のOllo Audio X1でさえ、Lensys Professionalよりは安価です。

密閉型が欲しいという場合も、基本家で使うのであれば、ライバルは多いです。抜けの良いサウンドは開放型に任せて、密閉型は別の用途で使う、というのが一般的でしょう。

例えばTAGO STUDIOのT3-01は7万円くらい。私も視聴したことがありますが、極めてナチュラルなサウンドで好印象。音の傾向は異なりますが、好みの範囲だし、開放型と併用するなら何の問題もない。Lensys Professionalと明確に違うのは、TAGOは折りたたみ・スイベル不可であることだけ。約5万の価格差を考えると、家で使うならTAGOは良い選択肢になりそうです。

個人的には密閉型でこの音というだけで、Lensys Professionalには十分12万円の価値があると思っています。ただ、特にポータビリティの優秀さはずば抜けているので、サウンドだけでなく可搬性にも魅力を感じる人のほうが満足感は感じやすいのではないかと思います。

IA x ロック、時々EDM。
ボカロ新曲MVはこちら。

moka

作曲と映像編集。ぷよぷよS級リーグPVの映像やテーマ曲を担当。 DTMのニッチな悩みに刺さる情報を発信します。

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